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#4

1986年の創刊以来、おもに10代後半~20代の男性に向けてファッションや
カルチャーなどの情報を発信し続けている「MEN’S NON-NO」。
近年、男子の美容への意識の高まりをいち早くキャッチし 「メンズ美容とい
えばメンズノンノ」と呼ばれるまでに、トレンドを牽引。常に進化を続ける
「男子」と「美容」の分野について、話を聞きました。

「MEN’S NON-NO」Web編集長

丸山 真人 (まるやま・まさと) MASATO MARUYAMA

1998年入社、「non-no」、「BAILA」、「UOMO」、「éclat」と集英社の各女性誌、男性誌を幅広く経験したのち、2019年に「MEN’S NON-NO」へ。2021年より同誌Web編集長。

「MEN’S NON-NO」編集主任

宮﨑 茜 (みやざき・あかね) AKAME MIYAZAKI

2007年入社、「Seventeen」へ配属。2013年より「MEN’S NON-NO」に。ファッション、美容、カルチャー、セレブリティなど幅広い記事を担当。

CHAPTER 01

メンズ美容が“楽しくてカッコいい!”となるまで
メンズ美容が“楽しくて
カッコいい!”となるまで

現在、「MEN’S NON-NO」では年に一度、「メンズノンノ美容大賞」というメンズ美容に特化したベストコスメアワードを実施しているそうですね。

宮﨑:

今年で9回目を迎えました。「メンズノンノ美容大賞」は、モデルやクリエイターの審査、そして読者からのWeb投票も含めて、Z世代男子が本当に使える&使いたいビューティアイテムを、「洗顔」「化粧水」「ベースメイク」など部門別に選出、発表しています。
今年は史上最多の19部門を選出。最も注目されたアイテムに与えられる「Best of 美容大賞」は、大谷翔平選手のCMも話題になったブースター美容液に輝きました。

読者からの注目度も高い「メンズノンノ美容大賞」が、ここまでの盛り上がりを見せるようになるまでの道のりを教えてください。

宮﨑:

一番最初に大きな美容特集をやったな、という記憶があるのが、2014年です。これは「男子の美容100本ノック」という企画でした。美容に関するQ&Aを100個集めたのですが、当時はいまほどメンズ美容が世の中に浸透していない頃で。「化粧水はいつ使うんですか?」「髭剃りのあとってどうしたらいい?」などの問いに応えながら、本当に基礎的な美容情報を紹介していきました。

※2014年3月号

丸山:

ドライヤーの使い方や、汗、匂いなどのエチケット対策なども掲載していましたね。いま思うと当たり前のような内容ですが、当時「メンズ美容」という概念はほとんどなく、美容は男子にとって他人事という感じだったので、とにかくわかりやすく、身近なことから伝えるのが重要でした。

宮﨑:

「MEN’S NON-NO」はファッション誌なので、もっとカッコいい自分になりたいという読者が多く、美容にも意識を向けている人も、潜在的にはいたと思います。ただし、表立ったムーブメントはなかったですし、服とは別モノ、無関係だと思い込んでいた層も多かったはず。そんな土壌のなかで、メンズ美容というカテゴリーをつくっていくのは、新しい試みでしたね。

多くの男子読者が「俺には関係ないかな」と思っていた美容に興味を持ってもらえるよう、意識したことはありましたか?

宮﨑:

とにかく楽しく。強制するようなことはしないよう心がけました。また、美容情報だけを切り取って紹介するのではなく、ビューティだってファッションと地続きだよ、やってみると楽しいかもね、というさじ加減やバランス感覚を大事にしていました。
そしてファッションっぽい、カッコいい美容ページをつくるために、クリエイターさんの力も、かなりお借りしました。当初、美容テーマとなるとモデルに借りられる衣装にも制限があったんです。そこでスタイリストさん自らが、より幅広いブランドから洋服を借りられるように交渉してくださったり。「アウターとヘア、オレ的ベストマッチ」という記事のような、ファッションと美容をリンクさせた記事もよくつくりました。
そんな頃に、女性誌での編集経験が豊富な丸山が、「MEN’S NON-NO」へ副編集長として(当時)異動になり、エディター側もさらに美容ページへいろいろな挑戦をしていくようになりました。

※2017年3月号

入社以来、「non-no」「BAILA」など女性誌の各部署を経験してきた丸山編集長。女性にむけた美容ページのつくり方については豊富な知見があったと思いますが、メンズ美容に関してはどんなアプローチを考えましたか?

丸山:

そうですね。女性誌を長くやってきたからこそ、その手法は一度忘れたほうがいいかもしれないと思いました。顔のアップを撮影し、スキンケアやメイクのプロセスを細かく見せる、いわゆる「ド美容」な見せ方を展開しても、ビューティの文化の土壌が浅い男子には受け入れにくいだろうと……。でもその辺りのニュアンスの難しさは、すでに宮﨑がくみ取って挑戦してきていたので、私のほうが逆に、彼女に教えてもらったことのほうが多いかもしれません。

宮﨑:

丸山編集長と言っていたのは、「男子たちがわちゃわちゃ楽しそうにしていて、そのなかに自然とビューティの要素が入っていたらいいよね」、「それでいて、カッコいいムードを忍ばせよう」と。

丸山:

そう。「美容のなかにもカッコいい! というムードが入っていることが大事」って話はよくしたよね。

宮﨑:

はい。美容畑ではないファッションフォトグラファーさんに写真を撮っていただき、文章もロジカルなことばかりでなく「お前、スキンケアってどうしてる?」というラフなテンションにしたりと、いわゆる“ザ・ビューティ”ではないページもつくりました。一見、ファッションやカルチャーのページのようで、よく読むと、洋服ではなくて美容関連のページだったみたいな(笑)。

丸山:

あとは2021年に、美容だけで本誌1冊を丸ごとつくった号がありまして。これはファッション誌「MEN’S NON-NO」の歴史のなかでも、エポックメイキングだった気がします。この時は、読者アンケートをとくに綿密にとったんですよ。すると、彼らがスキンケアに求めていることへの回答が「つるつる、すべすべ、もちもち」だったりして。美容文化が根づいている女性誌からは、あまり出てこない回答でした。だけどこのざっくり感が面白いし、いいよね、という話になって。

宮﨑:

「つるつる肌になるには」「すべすべ肌になるには」「もちもち肌になるには」と、読者の感覚的な要望を、まさにそのまま活かしたページをつくりました。

※2021年2月号

いま、「MEN’S NON-NO」の読者層はZ世代。自分たちの心地いいものを素直に取り入れる人たちですね。

宮﨑:

そうなんですよ。美容の100問100答をつくっていた10年近く前は、化粧水を使ってるのはかなり気をつけている人、みたいな感覚がありましたが、いまの読者世代は「メイク、俺はしないけど友だちはやってますよ」とか、さらっと受け入れていて。ネオな時代がきたなあとうれしく思っています。

CHAPTER 02

編集部、クリエイター、読者が一緒になって メンズ美容を盛り上げていく
編集部、クリエイター、
読者が一緒になってメンズ 美容を盛り上げていく

いまの読者の美容に対する感覚をさらに後押ししている存在が「メンズノンノ美容大賞」。別冊付録「MEN’S NON-NO BEAUTY」での発表になりますが、誌面はどうやってつくっていますか?

宮﨑:

会社の会議室を2日間貸し切ってその年にエントリーされたコスメや美容ギアを並べ、カメラマンやスタイリスト、モデルなど、美容以外が専門のクリエイターさんもお招きして、これぞというアイテムを選んでもらいます。もちろん、読者からのオンライン投票の情報も重視。アワード情報に加えて、誰もが見て、使える美容別冊にしたいと思ってつくっています。

専属モデルも選考に参加!

丸山:

情報量の多さは日本、いや世界のメンズメディアのなかでも随一、と言い切れるかもしれません!

「メンズノンノ美容大賞」をつくってきた8年間の中で、転換点を感じたことは?

丸山:

コロナ禍の影響は大きかったと思います。2021年の「Best of 美容大賞」がB.Bクリームだったんですが、これは私たちにも意外な結果でした。メンズ向けのメイクグッズは以前から各ブランドで発売になっていたものの、浸透するにはもっと時間がかかると思っていたので……。でも自宅にいる時間が増えたことで、美容に興味を持つ男子は確実に増えましたよね。その結果、スキンケアだけではなくて、「ベースメイクだって楽しいじゃん!」と思える人も出てきたのだなと。翌年の2022年は、光脱毛器が話題になりました。

宮﨑:

「僕らもじつは、ツルツルになりたいかも!?」という、みんなの声が聞こえた一年でしたね。ファッション写真のなかに美容テイストをこっそりしのばせた記事からつくってきた身としては、隔世の感がありました(笑)。同時に、いわゆるインフルエンサーやファッションリーダー的な存在が、美容情報を発信していたり、おしゃれな子がメイクをして街で歩いているなど、生活のなかで普通に美容を取り入れている男子が増えたことも、いまのメンズ美容の盛り上がりに拍車をかけていると思います。
あとはK-POPアーティストの人気ですね。「MEN’S NON-NO」でも「NCT 127」が多国籍なボーイズグループとして初めて単独表紙を飾ったときは、大きな反響がありました。
彼らが華やかな衣装やパフォーマンスだけではなく、ヘアメイクまで含めたアーティスティックな美しさでたくさんの人を魅了していることも、メンズノンノ世代が純粋に「カッコいい!」「こうなりたい!」と思うような美の価値観のひとつとして響いたのではと。
例えばネイルも、趣味や自己表現のひとつになりつつありますし。

丸山:

アイカラーなどの色ものも、これからは我々の想像以上に一般的になっていくかもしれないね。

宮﨑:

はい。いまは何が流行るか、私たちもわからないほどメンズ美容は変化の真っただ中にいます。それに今後は「日焼け止めを欠かさず塗る」など、基本的な美容ルーティンも、もっと根づいていきそうな予感がしますね。

※2021年4月号

成長を続けるメンズ美容のなかで、モデルからも「美容番長」と称される存在が育ってきました。

宮﨑:

守屋光治さん、樋之津琳太郎さんの二人は本誌で連載も持っていますし、「MEN’S NON-NO」の美容カルチャーを引っ張る存在です。とくに守屋さんの場合は、メンズ美容の黎明期から記事づくりに参加してくれていますね。

丸山:

彼も、最初はそこまで美容に詳しいわけではなかったんでしょう?

宮﨑:

はい。撮影に参加するうちに興味を持ってくれて。「美容、楽しい!」となっていった感じです。

丸山:

うれしいことですよね。守屋さんと樋之津さんに関しては、自主的に日本化粧品検定の1級も取得したんです。これ、合格するにはかなり難しいらしいので、編集部でも「すごい!」と話題になりました。

宮﨑:

彼らのようにメンズノンノ世代からの人気もあり、さらに知識も豊富な人たちが美容について語ることで、男子の美容への意識が底上げされますし、読者や広告クライアントからの信頼も厚くなりましたね。

いま、「メンズ美容」とビューティ関連の広告クライアントとは、どんな関係を築いていますか?

丸山:

新商品のデビューや定番商品がリニューアルするタイミングで「MEN’S NON-NO」を選んでいただくことが多く、美容関連のタイアップは好調です。タイアップ記事は、クライアントとの細かいすり合わせが欠かせませんが、「『MEN’S NON-NO』らしい、カッコいいムードで」と、これまでつくりあげてきたファッション誌の伝統と、この10年で育ててきたメンズ美容のクリエイティビティや挑戦するマインドを評価していただけることが多いです。さらに近年は、思いもよらない商材を“紹介して欲しい”というリクエストも多くて。まつげ美容液とか、アイライナーとかね。それも楽しいんですよね。

宮﨑:

現場で撮影しているときも、すごく盛り上がるんです! モデルもスタッフも、みんなで使ってみて「これはいいね~!」って。

丸山:

いま、男子たちにとって美容とは、「新たに手に入れつつあるギア」みたいなものかもしれません。RPGゲームで新しいアイテムを手に入れるとテンションが上がる感覚に近いと思っています。「俺はアイライナーを使ってみた!」「コンシーラーというアイテムで、気になっていた肌のくすみをカバーすることができた!」というような感じですね。そして「メンズ美容って楽しいかもよ」「使うといいことあるかもよ」という感覚は、「MEN’S NON-NO」が発信している美容コンテンツの根底にあるメッセージです。

唯一無二のメンズ美容カルチャーをつくり続けるなかで、編集部として心がけていることがあるとか。

丸山:

美容が男子たちにも浸透し、生活の中に新たな楽しみがひとつ増えたのは、とてもいいこと。いろんな人が自由に生きられる時代の、シンボルのひとつだと思っています。でもみんなが美容マニアになる必要はない、ということは、常に頭の片隅には入れていて。美しさって誰かに強制されたり、ひとつだけが正解、ということではないですよね。「毛がもじゃもじゃのほうがイケてるぜ」って思う人は、脱毛をする必要はないですし、素肌で勝負したい男子はスキンケアを極めていけばいい。メンズ美容カルチャー発信のパイオニアとして、やってみると楽しくなれそうな話題はひととおり提供していますが、決して押しつけにはならないように心がけています。

CHAPTER 03

こんな人と一緒に働きたいです
こんな人と一緒に 働きたいです

ファッション、ビューティ、カルチャーと、男子の気になることを最前線で発信し続ける「MEN’S NON-NO」編集部。これから必要としているのは、どんな人材でしょうか? 就活生としては、ファッション誌ゆえに「おしゃれじゃなきゃいけないのかな?」と、少しドキドキする面も……。

宮﨑:

ファッション好きに越したことはないですが、自分がおしゃれかどうかは、そこまで気にしなくても大丈夫です(笑)。私たちの仕事は世の中のおしゃれな人やモノを、さらにどう素敵に見せていくのか、なので。

丸山:

そう。カッコいいビジュアルをつくることに、熱量を傾けている人たちの集団が「MEN’S NON-NO」。裏方の私たちの私服がおしゃれなのかどうかは、また別の話なのかもしれません(笑)。編集部内の雰囲気は、新しいことを柔軟に取り入れていきたいねという、フラットな感じです。だから、色んなことを一緒に面白がれる人がいいですね。いまは世界中の誰もが発信者になれる、とにかく情報が溢れている時代。だからこそ逆に世の中に無関心になることもできると思うんですよ。でも「このコスメすごい」「このファッションすごい」「最近観たアートの中に感動があった」など、多方面にアンテナを張り巡らすことができる、というのは大事かなあ。

宮﨑:

いつも心をオープンにしていることも必要ですよね。今日は美容をトピックにお話しましたが、私も丸山編集長も、美容に限らず、たくさんのジャンルの記事をつくっています。美容以外の話題にも関わっているので「あの人にスキンケアのやり方を聞いてみよう」「こんな切り口での美容ページもいいのでは?」と、アイデアが浮かぶ側面もあります。メンズ美容もスタートした時点では、編集部の全員が美容に詳しいわけではありませんでした。でも挑戦しようと判断したこと自体が、気持ちが外に開かれている証拠だし、編集者として必要な要素だと思います。

丸山:

そうだね。さらにその上で、自分たちが発信していく情報を、もう一段階、二段階深く掘り下げられる粘り強さもあるといいですね。もちろん新人の頃からいきなりできるわけではないので、安心してください(笑)。現場経験を積みながら、「面白いコンテンツって何だろう」と、考えていけるようになればといいと思っています。