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あらすじ・概要

1960年代、憧れの地、日本にやってきたR。金髪の巻き毛に青い瞳、大使館に勤めるフランス人エリートの彼は、女性の目を引きつけ、遊びの関係には苦労しない生活を送るが心はどこか満たされず、戯れの情事にも生きることそのものにも空しさを覚えている。
駒込に居を構え、知人の紹介で茶道を習い、次第に日本に馴染んでいくRにある夏の日、雷に打たれたような出来事が起こる。茶道教室に名家の令嬢、真理子が入門して来たのだ。ひと目で恋に落ち、初めての充足感に胸を躍らせるR。一方、真理子も突然訪れた恋に本能が目覚め、のめり込んでいく。「あなたと出会ってから正気とは思えない行動をいろいろとしてきたけれど…。」秘密の逢瀬を重ねるなかで、恋がいつか成就することを願うR、結ばれることは不可能と知っている真理子。「わたくしの愛しいひと、何てことなさったの?」ふたりを待ち受けているのは……。
物語を通して茶道の点前が詳細に緻密に描写され、底辺ではバッハ「ピアノ協奏曲ヘ短調第5番第2楽章の調べが流れている。東京各所、京都、60年代から80年代、いくつもの時空を交差させながら、ふたつの魂の出会いから行く末までが丹念に綴られる。

リシャール・コラスの8冊目の著書。日本在住45年、日本の文化を深く愛する著者ならではの該博な知識で、茶の湯、日本建築などが端然と描写される。同時に、1960年代から80年代までの日本の風俗、社会状況をフランス人Rの鋭い視点で観察し、精緻な筆致で描き出す。著者の日本への深い愛、同時に失われていくものへの哀しみが、物語の通奏低音として響いている。

【プロフィール】
リシャール・コラス 
1953年フランス生まれ。1975年パリ大学東洋語学部卒業。1975年より在日フランス大使館儀典課勤務。その後、ジバンシィなどを経て、シャネル株式会社に入社。1995年シャネル株式会社代表取締役社長に就任。2018年より、シャネルSARL(スイス)へ赴任。シャネル合同会社会長も兼務。フランス国家功労勲章シュヴァリエ、レジオン・ドヌール勲章、オフィシエを受章。2008年日本政府より旭日重光章を受章。私生活では小説家として活躍。『遙かなる航跡』(2006年/集英社)『紗綾』(2011年/ポプラ社)『旅人は死なない』(2011年/集英社)『波 蒼佑、17歳のあの日からの物語』(2012年/集英社)ほか