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天使突抜 おぼえ帖
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あらすじ・概要
京都でも知られていない小さな町、それが「天使突抜(てんしつきぬけ)」。オシャレな名前に聞こえるけれども、古都の地場産業を支える職人さんを初めとする、庶民が暮らす下町です。この天使突抜で、風呂敷職人の家に生まれた少女がプロの音楽家を目指すに至るまでの物語や、さまざまな人々との出会いを描く、喜怒哀楽に満ちた珠玉のエッセイ。
通崎睦美(つうざき・むつみ)
1967年京都市生まれ。京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了。マリンバのソリストとして活動する中、2005年東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会(指揮/井上道義)で、木琴の巨匠・平岡養一が初演した紙恭輔『木琴協奏曲』(1944)を平岡の木琴で演奏。それを機に、平岡の愛器と約600点にのぼる楽譜などを譲り受ける。以後、クラシックの分野で世界唯一の木琴奏者として、演奏や執筆を通して木琴の復権に力を注ぐ。13年に上梓した『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』(講談社)で、第24回吉田秀和賞、第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)を受賞。18年4月、ニューヨーク州立大学オスウィゴ校の招きで渡米。同大学をはじめニューヨーク州各地でコンサートやマスタークラスを行なった。また、2000年頃よりアンティーク着物の着こなしや蒐集が話題となり、様々なメディアで紹介される。著書に『天使突抜一丁目〜着物と自転車と』『天使突抜367』(淡交社)他。21年、第39回京都府文化賞功労賞。
著者まえがき(抄)
私は、一九六七(昭和四十二)年生まれ、今年五十五歳。
一九六四年の東京オリンピックは知らない。
一九七〇年の大阪万博は記憶にないが、黄色い万博の帽子をかぶった写真が残る。
そんな世代だ。
近くのお寺、上徳寺の一室で開かれていた教室でマリンバのお稽古を始めたのは五歳の時のこと。だからマリンバを弾き初めて五十年になる。
プロの演奏家を名乗るようになって三十年、京都とアンティーク着物のことを書いた初めてのエッセイ『天使突抜一丁目』(淡交社)を上梓してからは、二十年が経つ。
時の流れは早い。自分でも驚くばかりだ。
当初、「天使突抜のこと」、すなわち京都の下町の日常を綴ると言われてもピンとこなかった。
しかし、「むっちゃん」と呼んでかわいがってくださった、近所のおっちゃんやおばちゃん達が次々と鬼籍に入られていく。そして、古くからあった家が解体されマンションが建ち並ぶ。
つい最近まで、お仏壇に供える御仏花はうちに回ってきてくださる「白川女」のおばさんから買っていた。しかし、そんな京都の風物も、この十年、二十年で、見られなくなるものがどんどん増えている。
今年、八十九歳、八十六歳を迎える両親が、いつまでも元気でいるとは思えない。
母が戦後、満洲から引き揚げてきた話も、今聞いておかなければ、知らないままになってしまうことがあるだろう……。