2022.11.18
荒木飛呂彦氏が全カバーイラスト描き下ろし。アジア全域の共通歴史財産となる、集英社創業95周年記念企画『アジア人物史』
歴史を人物で切り取る新しい挑戦
2022年12月から刊行される全12巻の『アジア人物史』は、集英社の創業95周年記念企画として、2007年から構想が練られてきた一大プロジェクト。アジア地域の古代から21世紀までを網羅した、初の本格的なアジア通史です。総監修は姜尚中氏、編集委員には現代アジア史研究の第一人者10名が名を連ねました。
最大の特徴は、アジア全域の3000人を超える歴史的人物にスポットを当てたこと。各巻を時代で区切り、日本、朝鮮半島、中国、東南アジア、南アジア、中央アジア、西アジアの7エリアの主人公、副主人公、彼らに関連するその他の人物たちのドラマを3層構造で描いていきます。一番古い時代の人物は、1巻「神話世界と古代帝国」のハンムラビ(バビロン王国の5代目の王)。そして12巻「アジアの世紀へ」では、ブルース・リー(俳優)、水木しげる(漫画家)、大田昌秀(元沖縄県知事)らにスポットを当てるなど、幅広いジャンルの人物のドラマを体系的に取り上げています。
4巻の「文化の爛熟と武人の台頭」の場合、日本では2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の主人公・紫式部の人生に重大な影響を与えた藤原道長や、現在放送中の『鎌倉殿の13人』にも登場した後白河院や慈円を取り上げています。一方、南アジアでは、9世紀から13世紀にかけて同地域で非常に影響力を持っていた、タミル系のヒンドゥー王朝・チョーラ朝を取り上げました。藤原道長とチョーラ朝の英傑として知られるラージャラージャ1世が、同時代人だったことを知る楽しさもあるのです。
170人超の学者による全巻書き下ろし
取り上げる人物が多いだけでなく、170人超という書き手の多さも特徴。全巻書き下ろしということも、これだけ大規模な企画には非常に珍しいことです。エリアごとに委員会を作り、専門の学者の方々に人物を選定していただく議論を、約1年近くかけて行いました。
そもそも歴史学者にとって、個人に焦点を当てる人物史は本分だと思われていません。ところが “登場人物が何を考え、どう生きたか”を念頭に書いていただくことで、専門としている時代を考え直すきっかけにもなったよう。地域をまたいだ人物や出来事が登場した場合には、普段出会うことのない、それぞれの専門家同士で意見交換が行われるなど、相互に触発しあい想像力を高めて執筆が行われました。
全12巻のカバーイラストを描き下ろしたのは、『ジョジョの奇妙な冒険』の作者として知られる荒木飛呂彦氏。著名な荒木氏による美術的価値も高いイラストを、金箔箔押し加工で表紙にあしらいました。できる限りの時代考証を経て、荒木氏と編集部でデザインを練り上げています。それぞれのイラストには、人物と小道具、紋様の3つの要素をセットで描いていただきました。
専門家・学生・クリエイターの刺激になれば
『アジア人物史』は全12巻+索引巻合計セットで税込予価5万4670円と高額です。一見、難解な全集だと敬遠されるかもしれません。しかし、歴史を人物で切り取った本書は、それぞれの章、それぞれの登場人物が、映画の題材になるのではないかと思えるほど、ドラマティックなものばかり。歴史の専門家だけでなく、小説や漫画、ゲームや映画など、さまざまなジャンルのクリエイターの心も刺激するはずです。
また、高校生や大学生へのプレゼントとしても最適ではないでしょうか。普段、何気なく生きている日常の隣に、知識を集積した本の塊があることを実感できるだけで、世界が少し豊かに見えるはず。若い世代に文化的環境を作り、歴史を未来に繋いでいくことも、大人の役割だと考えています。
将来的には、簡体字、繁体字、ハングル、日本語を合わせ、東アジアの4つの言語体系で翻訳されることも想定。アジアにとって共通の歴史財産になることを目指しています。