女性や現代人ら多様な偉人に光を当てる、学習まんがシリーズ「世界の伝記NEXT」

（左から）Ⓒ塩島れい　Ⓒ二尋鴇彦　Ⓒ春野まこと　Ⓒ千田純生

70年の歴史を誇る集英社の“学習まんが”

文化や教育、慈善、政治、ビジネスの世界で活躍した人々の生きざまをまんがで学ぶことができる「学習まんが 世界の伝記NEXT」シリーズは、ターゲットとなる子どもはもちろん、親も楽しめるクオリティの高さで人気を博しています。今年で誕生から13年を迎えましたが、実は集英社の“学習まんが”の歴史は、今から70年前の1953年までさかのぼれるそうです。

『おもしろ漫画文庫 左甚五郎』　Ⓒ中島菊夫

「おもしろ漫画文庫」シリーズがその始まりで、人物伝や古今東西の物語など198巻を刊行しました。その後も「学習漫画文庫 偉人物語編」「人物日本の歴史」「世界の伝記」などさまざまなシリーズが誕生し、時代に即した絵柄と内容にブラッシュアップしながら現在まで続いてきました。

伝記を紹介する学習まんがの役割は、読者である子どもがその人物について憧れや好奇心をかき立て、夢のきっかけを提示すること。120ページという短いページ数で、とりあげる人物が子どもの頃にどんな体験をしたのか、家族や学校でどんなやりとりがあったのかをしっかり描き、読者が同じ目線になれるように意識しています。

『世界の伝記NEXT 中村哲』より　Ⓒ二尋鴇彦

生涯の業績をただ網羅するのではなく、子どもが興味を持てる内容をメリハリをつけてピックアップすることも重要です。もちろん主人公をかわいく、かっこよく、今っぽく描くことも求められています。学習まんがに携わるまんが家は、つい読み進めたくなるドラマティックな構成や、監修者の指示を正しく落とし込む技術などの職人技を身につけた稀有な存在なのです。

人選は時代のニーズに即して新鮮に、大胆に！　売上のトップ５はすべて女性

（左から）Ⓒ奥良モト　Ⓒ東園子　Ⓒくりた陸　Ⓒ東園子　Ⓒ海野そら太

また、「世界の伝記NEXT」は女性を多くテーマにしていることが特徴です。既刊43巻のうち約半数の21巻が女性で、『ヘレン・ケラー』と共に歩んだ教育者『サリバン先生』や、世界で最初の女性医師『エリザベス・ブラックウェル』などを取り上げてきました。また、女優の『オードリー・ヘプバーン』『グレース・ケリー』や、元イギリス皇太子妃『ダイアナ』など、個人としても輝いていた人たちにも光を当てています。なんと売り上げのトップ５は女性の偉人が占めています。
NHK大河ドラマで取り上げられた人物や、2024年に新紙幣になる渋沢栄一、北里柴三郎、津田梅子の３名など、タイミングと知的好奇心が広がる人選も意識しています。新しい偉人の発掘にも積極的で、シリーズ約３分の１にあたる15人が第二次世界大戦後にも存命していた人物。特に『ディエゴ・マラドーナ』は、子ども向けの伝記としてはチャレンジングな人選でしたが、現在フランス語翻訳版が進行するなど、世界からも注目を集めています。

2023年には、伝記を通じてSDGsへの理解を深める「伝記×SDGs」シリーズもスタート。第１期の「貧困や飢餓に立ち向かった日本人」として、７月に医師の『中村哲』を発売しました。世の中のために何かを成し遂げた人たちの生涯には、SDGs的な発見が多くあり、子どもたちの深い理解にもつながると考えています。

時代が変わっても届け続ける“定番の10冊”

（左から）Ⓒよしまさこ　Ⓒ込由野しほ　Ⓒ榊ゆうか

積極的に新しい人物を取り上げる一方で、「世界の伝記NEXT」シリーズの前身である「世界の伝記」から、『ナイチンゲール』『アンネ・フランク』『マザー・テレサ』などを“定番の10冊”として移行し現代版にアップデート。

ナイチンゲールの場合、これまでは前提条件として戦争があり、それを補佐する献身的な女性として描かれることが多い人物でしたが、「世界の伝記NEXT」では看護師として、統計学者として何をなしたかにフォーカスして再評価をしました。定番として残っている10冊は、道徳観や人権意識が変化する時代の評価を乗り越えてなお、現代の子どもたちに伝えるべき業績をなしとげた人物なのです。

今後はSDGsシリーズと並行し、これまでに取り上げたことのない偉人はもちろん、全く新しい観点から人物を紹介する新企画も進行中です。

「世界の伝記NEXT」は、「少年ジャンプ」や「りぼん」に触れるよりも前に、子どもたちが集英社のまんがに触れる入り口でもあります。これからも、子どもたちのロールモデルとなりうる人物の業績と生涯に光を当て、魅力的な学習まんがを作り続けていきます。