2021.04.15
漫画家育成の新たな場所を創りたい「ジャンプの漫画学校」
漫画制作に関するノウハウを公開
集英社が発行する「週刊少年ジャンプ」をはじめとする少年漫画誌は、半世紀以上にわたって多くの人気作品を生み出してきました。漫画雑誌が時代に合わせて変化していくなか、漫画の未来を見据え、もっと漫画家の力になりたいという思いから、「週刊少年ジャンプ」「ジャンプSQ.」「少年ジャンプ+」の編集者が、漫画制作のノウハウを公開する「ジャンプの漫画学校」を設立、2020年8月~2021年1月まで第1期の講座を行いました。
ジャンプ各誌や商業誌で将来大ヒットを狙う新人漫画家・漫画家志望者を対象に、ジャンプで活躍するプロ作家と、作品が生まれる過程を一番近くで見続けてきた編集者が講師を務めます。講義では漫画制作に役立つ現場のノウハウを学んでもらい、さらに編集者との打ち合わせから雑誌掲載までの実制作を体験できる独自のカリキュラムを組んでいます。
なぜ「学校」なのか?
新人漫画家の発掘には手塚・赤塚賞をはじめとする各種漫画賞や編集部への持ち込み、全国各地に編集者が出向く出張編集部など、すでに様々な手法があります。
そのなかで新たに「学校」という形式を選択したのは、漫画雑誌の存在感が昔と少し変わってきていることが影響しています。ジャンプ各誌での連載希望者は依然として多いものの、漫画業界では昨今、持ち込みや賞への応募数が減ったりしているという声が聞かれるようになりました。50年以上の歴史を通して蓄積した漫画作りのノウハウをオープンにすることで、ジャンプの漫画誌としての存在感を示し、漫画家や漫画家を目指す方々にできるだけ還元していきたい、未来を担う漫画家がジャンプにこだわる旗印のような場所を作りたい、と考えたときに行き着いたのが「学校」でした。
全10回の講義では、編集者と漫画家、両方の視点からの幅広い知識を身につけてもらうことを重視しました。受講者はまず編集者から「キャラクター、企画、連載の作り方」などの基礎的な知識を学んだ後、ジャンプ作家からヒットに至るまでの貴重な体験談や発見などを聞き、再び編集者からジャンルごとのノウハウなどのレクチャーを受け、実践的な技術を身につけていきます。
また、受講者にはそれぞれ仮担当が付き、個別のネーム添削などを通じて、実際に編集者と共に作品作りに取り組めるようになっています。さらに卒業制作の作品は「少年ジャンプ+」に掲載され、多くの読者からの反応を得て今後に生かすことができるという、ジャンプならではのステップアップ手法を用意しています。
ジャンプ作家が生の声で「多様な正解」を紹介
ジャンプの漫画学校では、受講者の方々に大ヒットを目指してもらうためには、実際にヒットを経験した作家や編集者の体験談や考え方を共有することが重要だと考えます。「面白いマンガはこれだ!」という正解はありません。作家それぞれの個性や描きたいことを、どうすれば読者の支持を得られる作品にできるのか。作家や編集者が経験してきた「多様な正解」例を紹介することで、受講者がそれぞれの正解を見つけるためのサポートを行っています。
第1期で講師を務めた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の作者、秋本治先生は「人と比べるのではなく、自分にしかかけないもの」を描いてほしいと話されていました。この言葉は受講者の皆さんにも強く響いていたようです。
熱意ある受講者が集った第1期
2020年の第1期募集には、約1000名の応募がありました。開校期間中10日間にわたり東京に来られる方という条件で、コロナ禍にも関わらず予想以上の応募があり、編集部も漫画家を目指す方々が寄せる期待感の高さに驚いたといいます。その後、応募者から選抜された50名と、ジャンプ各誌に掲載経験のある漫画家から希望者を募った特待生20名が、第1期の講義を受けました。受講者の熱意は高く、講義や仮担当との打ち合わせに真剣に取り組む様子が見られ、多くの卒業制作が提出されました。終了後のアンケートでは、ほとんどの方が高い満足度を得ていた、という結果が出ています。
ジャンプの漫画学校の今後
本講座はジャンプ各誌以外の雑誌での連載を目指す方や、他社で担当が付いている方も参加できます。目標をジャンプでの連載に限定しなかったのは「出版社の枠を越えて、少しでも面白い漫画が世の中に生まれてほしいから」という思いがあるからです。
「1期生の中から、国民的・世界的な人気作品を生み出すような漫画家さんが出てきてほしい」と担当者の期待が高まるなか、すでに第2期の開催も決定しています。受講者の作品を読みジャンプを信頼してくれた漫画家志望の方々が、ジャンプの漫画学校で学ぶことで、さらに新たな作品が生まれていく――そんな面白い漫画が次々と生まれる循環を実現できるよう、ジャンプの漫画学校は今度も活動を続けていきます。