“世界”のライバルと闘うために
2019年に「MANGA Plus by SHUEISHA」(以下「MANGA Plus」)がスタートした際は、「海外でも日本と同時にジャンプが読める!」と話題になりました。このサイトの立ち上げには、どういった経緯があったのでしょうか?
海外でのデジタル領域で、ジャンプグループの存在感を増したいという思いからスタートしました。現在でもそうですが、デジタルの世界には多くのライバルがいます。ひとつには、翻訳された海賊版の存在です。ライバルと言うには語弊がありますが、解決したい大きな問題です。あとは、タテ読みのWebtoon作品。韓国・中国発のWebtoonは海外市場で非常に人気があり、日本発の横開き形式のマンガで対抗できるサービスを提供したいという気持ちが強くありました。
おかげさまでローンチ以降、月間ユーザー数(MAU)が650万人以上まで成長し、2023年からはサブスクリプションサービスもスタートしています。今後の目標は、1話あたり1000万人が読んでくれるような、「MANGA Plus」発のヒット作を生みだすことです。
最近ですと、「週刊少年ジャンプ」で連載している『カグラバチ』が人気です。『カグラバチ』は、予告が公開された段階でアメリカを中心にバズり、連載がはじまってからもしっかり読者がつきました。『カグラバチ』ファンは自分たちを「Bachi Bros(バチブロ)」と称していて、1巻の発売に合わせて来日し、日本語版のコミックスを購入してSNSにアップしてくれる人もいました。そんな動きもあって、『カグラバチ』には海外各国から非常によい条件で翻訳出版のオファーが届き、既に刊行が始まっている国もこれからの国も、大きく展開していただけることになっています。こうして海外で先行して話題になる作品が生まれると、日本の「ジャンプ」にとってもいい刺激になると思います。
海外でとくに人気が出やすい作品の傾向や、国別の違いがあったりするのでしょうか? また、海外に向けて作品をつくることはありますか?
どうでしょうか? 例えば「吸血鬼モノ」など、海外でヒットしやすい要素がないわけではありませんが、アメリカでは『ONE PIECE』『BLEACH』『NARUTO-ナルト-』のようなジャンプの王道バトルマンガが人気ですし、フランスでは日本でもそこまでメジャーになっていない作品の翻訳のオファーを受けたりもします。
とはいえ、編集者が作家に「海外で売れるような作品を描いてください」と言うことはほとんどないと思いますね。先日Netflixで大ヒットした『イカゲーム』を手掛けた方がインタビューに応じていたんですが、「韓国でうけるようにつくっている。自分たちの国でしっかりうけるものをつくることが、結局世界に通じる」と話されていて、とても共感しました。この先、市場はどんどんグローバル化して、世界中の方が日本のマンガを読んでくださるようになると思いますが、編集部としては、意図して海外向けにするより、目の前の読者に喜んでもらえるよう作品づくりのお手伝いができたらと考えています。
週刊連載は、それだけでも厳しいスケジュールだと思います。どのように多言語で翻訳した作品を日本版の発売と同時に公開しているのでしょうか。
実際、みなさんが想像されている以上に時間がありません。擬音や看板のなかの描き文字などは、時間がかけられる翻訳コミックスでは現地語に描き替えますが、「MANGA Plus」では、近くに翻訳文を添えて対応しています。
原稿は完成次第、翻訳チームにデータを共有し、作業をスタートします。サービス開始当初は英語とスペイン語の2か国語でしたが、現在では9か国語に対応。「いったん英語に翻訳して他の言語にする」といったステップは踏まず、日本語から各言語に直接翻訳しています。その方が、翻訳の精度も高まるように思いますね。さらに「MANGA Plus」に関わる翻訳家はジャンプの熱心な読者ばかり。短い時間のなかでも、新しいキャラクターの名前や、今後の伏線にもなるような部分に関しては細かく質問を投げかけてくれますので、編集者と確認を重ねながら作業を進めています。
読者も、熱心なファンが多そうですね。
はい。「MANGA Plus」では、「ジャンプ+」のようにコメントを投稿できる仕組みがあります。気になるコメントは翻訳し、担当編集と作家に届けています。ユーザーにアンケートを取る仕組みもあって、それこそ「海賊版は読んでいますか?」なんてことも質問もしています。みなさん丁寧に答えてくださいますね。たまに海外のSNSで「こんなことまで訊いてるぜ!」と、噂になることもあります(笑)。
世界の才能を発掘!
「MANGA Plus Creators by SHUEISHA」
「ジャンプ+」における「ジャンプルーキー!」のように、マンガを投稿・公開できるプラットフォーム「MANGA Plus Creators by SHUEISHA」を2022年にスタートさせました。
じつはこんなに多くの投稿が集まると思っていなかったのですが、2022年の8月にサービスを開始して以降、総投稿数はゆうに1万作を超え、毎月600作、1500話以上が投稿されている状況です。Webtoonの投稿サイトは数あれど日本式のヨコ読み(横開き)Webコミックを投稿できるサービスがなかったようです。日本のマンガを読んで育ったファンが、日本のマンガのようなスタイルで執筆したがっている、という証でもあると思います。
日本同様の月例マンガ賞も実施していまして、2023年9月に投稿された『NO\NAME』がはじめて最高位の金賞を獲得し、「ジャンプ+」「MANGA Plus」での掲載を勝ち取りました。ここは、海外発のヒット作家となるような新人獲得・育成の場でもあり、今後力を入れていきたいです。
“世界”を相手にしたビジネスを、
より進めていきたい
「MANGA Plus」の今後の展望を教えてください。
海外向けの配信事業は、ちょうど10年前にデジタル配信がスタートした当時と似た雰囲気があるんです。2012年頃はまだ「デジタル配信なんて……」と懐疑的な見方も根強かったのですが、いまではもう、デジタル版のコミックスは紙と同様かそれ以上の存在感を示していますよね。
海外のビジネスもそうなっていくと感じています。10年後には海外の展開を視野に入れたビジネスが普通になっていくのではないでしょうか。
「MANGA Plus」には、多くの投稿者や、熱心に読んでくれるファンがいます。より一層の市場の拡大も見込めますし、「やってみたい」というアイデアと熱意があれば、今後も世界を相手にしたさまざまなビジネスができると思っています。
まずは読者をもっと増やしたいですね。いろいろな言語で翻訳作品数を増やしたり、国・地域ごとのマーケティングをきめ細かくやっていくことにより、読者を掘り起こしたいです。
最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。
「集英社に来てほしい!」という気持ちは第一にあるのですが、他のジャンルの会社も受けてみるのもいいのではないかなと思います。たくさん受けて、雰囲気の違いや相性のようなものを感じてほしいです。あと、このサイトを見ている方はおそらくまだ大学生活が1~2年残っていると思うので、その会社の得意分野とは「違うこと」に挑戦したり、極めてもらいたいと思います。マンガ編集部にはマンガ好きはたくさんいるので、マンガ以外の「好き」や「得意」が入社後にも使える武器になるはずですよ。