「MAQUIA」20周年の挑戦
~リアルイベントの復活~
2024年の9月21日から10月18日まで東急プラザ原宿「ハラカド」にて行なわれた、「MAQUIA」創刊20周年イベント「マキアサロン@ハラカド」※1。「MAQUIA」誌面から飛び出たようなリアル美容空間で、誌面掲載コスメのお試しコーナーやフォトスポット、カプセルくじなど盛りだくさんのコンテンツで連日にぎわい、約1か月の開催で4万人超の来場を記録、美容誌発として最大規模のイベントとして成功を収めました。こちらはどのような経緯から立ち上がったプロジェクトだったのでしょうか?
※1 「マキアサロン」とは「MAQUIA」創刊当時、誌面のコスメをリアルに試せる場をつくりたいと、銀座(その後丸の内)に開設されたスペース。当時はメディアミックスの先駆けとして画期的な試みで、5年間で来場者数延べ5万人以上を誇った。2022年から1日限定の広告協賛イベントとして形を変えて復活。
20周年記念として、美容好きな人も、そうでない人も楽しんでもらえるリアルイベントをやりたい! という思いが当初からありました。きっかけはいくつかあるのですが、とくにその思いが募ったのがコロナ禍でした。
当時、百貨店のコスメカウンターなどでは、感染防止対策のためにビニールが張りめぐらされており、直接商品に触れることがままならない状態で。もちろん大切な対策でしたが、目の前にコスメがあるのに、その感触を確かめられないことに、もどかしさを覚えたんですよね。いまは何でもネットで買える時代で、コスメも例外ではありませんが、美容好きの方々は、実際に商品を手にとり、自分の目と肌で質感や香りを確認して選択したい、そして感想を分かち合いたい人が多い。デジタル優勢な時代だからこそ、美容とのリアルなタッチポイントへのニーズはより高まっているのでは、と。ただコロナ禍でのリアルイベント復活にはいくつかのハードルがあり、社内外の調整も必要で、最初は2022年にマキアインフルエンサーなど、限られた方々を招待したイベントからスタートしました。それから少しずつ、協賛してくださる企業が増え、回数を重ねるごとに規模も大きくなり……。今回の「ハラカド」でのイベントへとつながっていきました。
現在、広告部は、メディアビジネス部と名称をリニューアル。従来の集英社の各媒体の広告枠セールスに加えて、雑誌やマンガなどの自社コンテンツを、広告主のあらゆるビジネスニーズに役立ててもらうべく、さまざまなプランを企画、セールス中です。そんなメディアビジネス部ですが、今回のイベントにどのように携わっていましたか?
広告協賛が入るイベントの場合、具体的には編集部とともにイベント内容を企画検討、広告協賛メニューの作成、広告主へのセールス、決定後は協賛内容の実施、イベント運営などの仕事があります。そのうえで、今回のイベントでメディアビジネス部が目指したのは、「ただ人を集めるだけでは終わらせない」イベントにすること。協賛してくださる広告主の方々にも、イベントの核となる、編集部発のコンテンツ案をご紹介しつつ、発信力が高いマキアインフルエンサーのエンゲージメント力や役割もお伝えして。「MAQUIA」だからこそできるイベントのための調整を重ねていきました。
為我井さんにとっては「MAQUIA」の媒体担当者としての仕事で一番印象深いのも、今回のイベントだったとか。
そうですね。やはり今回の「マキアサロン@ハラカド」の広告プロデュース業務は私にとってとても大きな仕事でした。イベント開催までの準備も1年ぐらいかかりましたし、開催期間が1か月弱という長期間。「MAQUIA」を応援してくださる20を超える協賛企業、間に入る広告代理店の担当者、そして編集部との調整を重ねていくのは、大きな経験になりました。協賛企業の数が多い分、動く金額も、決して少なくはないですし。「MAQUIA」という媒体を、また別の側面から大きく育てていくような感覚がありました。
「マキアサロン@ハラカド」は、為我井くんたちメディアビジネス部や宣伝部との連携があったからこそ無事に開催までこぎつけたと思います。編集部の希望としては、1日、2日で終わるイベントにはしたくなかったものの、結果的に開催期間が28日間になっていて。もはや小さなお店をつくり上げるようなものですから。通常の「MAQUIA」の編集業務をしながら、イベントの準備を進めていくのはすごくたいへんで……。開催までは、編集部、宣伝部、メディアビジネス部の間で密に意見を交わしながら、つくりあげていきました。為我井くんはイベントが開始してからも、ずっと現場に行っていたよね。
そうでしたね。開催までに様々な会社や人と折衝を重ねるなかで、僕も成長できた気がしています。あまり皆さんの意見に流されすぎても本質がぼやけていくし、自分の話も説得力が薄くなってしまう。社会人として「いろいろな提案を受け入れる部分」と「ゆずらない部分」のバランス感覚も養われたと思います。編集部とイベント協賛側をつなぐ際に意識していたのは、とにかく「MAQUIA」という媒体の、一番の理解者、味方であろう、ということでした。そして、この創刊20周年のイベントが終了する前から、すでに広告代理店や広告主の方々から「創刊21周年は何をしますか?」と、お問合せをいただいてまして(笑)。「マキアサロン@ハラカド」の現場で感じたこと、来場してくださった方の反応などを、広告代理店や広告主の皆さんに共有し、つぎの広告事業につなげていくのが、これからの私の仕事です。
伊藤編集長はイベントを終えたいま、どんなことを考えていますか?
今回のイベントによって、節目となる年に「MAQUIA」の存在感や知名度を、大きく印象づけられたと思っています。誰でも立ち寄れる、様々な世代の方が集うイベントにしたいという思いは叶えられたと。そのなかで、雑誌発の媒体として“美容を通して私を楽しむこと”そして“「MAQUIA」は、自分らしい美しさによりそう媒体であること”を伝えられたとしたらうれしいです。いま思うと紙媒体が「MAQUIA」の原点だから、会場に本誌のバックナンバーを置いたりしてもよかったのかも?
確かに! そうですね。
次回は雑誌も自由に読んでもらえるように置いてみようか。……と、こんな感じで、今後のイベントについても、メディアビジネス部や他部署と連携をとりながら、常に試行錯誤を重ねています。
創刊以来、
「MAQUIA」が大事にしてきたもの。
「MAQUIA」が創刊されたのは2004年。創刊時のキーワードは「うっとり」でした。当時の美容の一般的な定義は、いまとは少し違っていたかもしれません。相手あってのメイクが前提だったり、モテるためにスキンケアやメイクをするのが主流だったと思います。そんななかで、創刊時に「MAQUIA」が掲げた、美容を通じて自分自身を磨きたい=人生をエンパワメントする考え方は、時代を先取りしていたといえるかもしれません。
そうかもしれないですね。創刊当時、私は「MORE」の編集者でしたが、「MAQUIA」は単なる美容情報の紹介だけではなくて、骨太な読み物記事があったり、小説が載っていたり。いい意味で個性際立つというか。美容を超えたエンタメ性がある雑誌だなと感じていました。「MAQUIA」という雑誌の雰囲気自体は、その時代が求めるものや、歴代編集長の得意とするカラーでさまざまに変化してきているんですが……。美容を通じて自分を大事にする、個性を活かしてよりハッピーな毎日を過ごそう、という価値観は、ずっと受け継がれていると思います。読者に向けた“自分軸を大事にしよう”というメッセージは「MAQUIA」だけではなく、集英社の他のファッション媒体にも共通するDNAかもしれないですね。
いまの「MAQUIA」は、情報量はもちろんですが、読み物としても“濃い”企画が多いですね。
最近だとWeb媒体の「MAQUIA ONLINE」で、歌手の天童よしみさんに、美容について取材させていただきました。天童さんは歌手としての華々しいご活躍はもちろんですが、実はあくなき美容魂を持っていらっしゃることを知り「ぜひお話を伺いたい」という流れになったんです。「MAQUIA」では美容への熱量が高い方であれば、活躍のフィールドにこだわりなく取材させていただく、ということを大事にしています。
「MAQUIA ONLINE」では、声優の皆さんの美容愛を深掘りした連載「人気声優の美容を深堀り♡Say!You!Beauty」も注目されていますよね。
そう。あれも編集部内に、声優が大好きなエディターがいて生まれた企画だったんです。
自分軸で美容を楽しんでいる声優の方って、じつは多いんです。その事実が美容分野と結びついていなかったので、「MAQUIA ONLINE」での連載スタートは、広告の分野でも注目を浴びましたし、クライアントの広告実施にもつながっていくきっかけにもなりました。メディアビジネス部の私にとっても、ありがたい連載となっています(笑)。これも自由な発想を大事にする、いまのMAQUIA編集部らしい企画だと思いますね。従来のイメージにこだわらないことで、美容の世界がもっと広がり、広告に携わる者としても新たなビジネスの可能性をつくっていけると感じています。
為我井さんは入社5年目。2022年から「MAQUIA」のメインの広告媒体担当をしており、いまではYouTube「MAQUIAチャンネル」でバッグやポーチの中身を紹介したりと、「MAQUIA」コンテンツのなかでも活躍しています。最初から広告の部署を志望していたのでしょうか。
入社時はメンズファッション誌での編集を希望していました。ただ、仮配属の前に希望部署を書く紙に、広告部の名前も書いたような気がするんです(笑)。というのも、研修中にお世話になった1年上の先輩が広告部の方でした。すごく尊敬できる人だったので「あの先輩と一緒に働けるのならば、広告部もいいなあ」と思ったような……。実際に働いてみて、メディアビジネスの仕事は、雑誌の台割※2を編集長と相談しながらつくったり、付録制作にも携わったりと雑誌の制作現場も学びつつ、社内外の方々と密にコミュニケーションをとりながら仕事を進めるので、やりがいがあります。集英社で雑誌づくりやコンテンツビジネスに携わりたいという人は、私のような仕事もあるんだ、と知っていただけたらうれしいです。
※2 雑誌の台割
雑誌をつくる際に不可欠な設計図。どのページに何の企画が掲載されるかなど一覧でわかる表で、編集部はもちろんのこと、社内の関連部署、印刷会社など社内外の関係者が台割をもとに雑誌を組み立てていく。
これからの「MAQUIA」について
伊藤編集長が、いま、そしてこれからの「MAQUIA」で目指すものを教えてください。
私はスキンケアやコスメだけが、美容ではないと思っています。「100歳まで長生きしたい」「もっと筋肉をつけて体を引き締めたい」「健康に暮らすには?」や「美味しいご飯を食べたい!」という気持ちも、自分にとっての美しさへの探求心。誰もが、なんらかの形で美容には関わっているし、関心があると思うんですよね。美容好きとはこういう人、という先入観をあまり設けずに、いろんな角度から美容を提案し、美容を楽しむすべての人の明日が明るくなるように、誌面、デジタル、リアルイベント全方位で「MAQUIA」のコンテンツをつくっていきたいと思っています。
最後に集英社やMAQUIA編集部に興味がある方にメッセージをお願いします。
MAQUIA編集部に関していうと、美容に興味があればもちろんうれしいですが、特別な資格を持っていたり、ものすごく美容に詳しい人でないといけない、ということはないので、その点は安心して欲しいですね。私自身、最初は美容そのものよりも、美容を愛する“人”に興味がありました。「そこまで情熱をかける原動力は何だろう?」と。「MAQUIA」でコンテンツをつくっていくうちに、美容家さんの美容に対する熱量や、コスメの開発の現場についても知ることになり、奥深くて素晴らしい世界だなと思うようになっていった感じなんです。だから「毎月、コスメを爆買いしていなきゃ、美容メディアの編集者にはなれない」みたいなことはないですよ(笑)。
そしてこれは「MAQUIA」に限らず、編集者を目指す人全般に言えますが、他者に興味を持ってほしいですね。いま「MAQUIA」をはじめとした集英社のコンテンツは、紙、Web、SNS、YouTube、リアルイベントとたくさんの発信手段があります。どれもそれぞれの持ち味があるけれども、基本にあるのは、“誰かに何かをとどける”、“人と関わりつづける”姿勢。「スキンケア大好き」、「メイク大好き」で自己完結してしまうのではなく、世の中や、自分以外の人に関心を持ちつづけてほしい。そのうえで、自分を取り巻く周囲の人にも寛容でいられたら、社会人として素晴らしい経験が積めるんじゃないでしょうか。